青空が描かれた背景の前に、昭和の街並みを再現した精巧なジオラマが展示されており、木造の住宅やパトカー、電柱、駐車場に並ぶミニカーなどが細部まで作り込まれた大きなミニチュアセットの写真

第1回、第2回と、センター収蔵庫の資料を取り上げてきた収蔵資料紹介コラム。今回は番外編として、センター2階のミニチュアセットについてご紹介します。写真撮影スポットとしても人気の高いミニチュアセットですが、そこに施された工夫の数々を知ることで、より深く、また新たな見方で鑑賞することができます。

1.ミニチュアセットにみる特撮技法

須賀川特撮アーカイブセンターの2階には、ミニチュアセットが配置されています。このセットは特撮美術監督である三池敏夫氏によって設計されたもので、建物が並ぶ町の雰囲気と、畑や山が広がる田舎の雰囲気を同時に楽しむことのできる構成が魅力となっています。

青空と山並みが描かれた背景パネルの前に、昭和の街並みを再現した精巧なジオラマが広がり、道路を走るバスやパトカー、木造住宅や建設用クレーンなどが細部まで作り込まれたミニチュアセットの写真

手前には住宅街が、奥には緑豊かな風景が広がる

フォトスポット用デザインプランで、青空が描かれた絵の前にミニチュアの街並みや撮影機材、人物のシルエット、説明書き、寸法などが細かく描き込まれたイラスト

三池氏によるミニチュアセット プラン図

素朴な景観のこのセットには、実はいくつもの特撮技法が駆使されています。

まず注目したいのは、使用されているミニチュアの大きさです。セットをさまざまな位置から観察してみると、ミニチュアの大きさがそれぞれ異なることに気がつくかもしれません。例えばミニカーを比較すると、セット前方にある軽トラックはセット後方の乗用車に対して明らかに大きなスケールのものが使われています。また建物についても、手前の一軒家の方が奥の4階建てのビルよりもサイズが一回り大きくなっています。

最もこの特徴が顕著なのはセット中央にまたがる舗装道路です。セットの後方から見るとよく分かりますが、この道路は道幅が一定ではなく、奥へ進むほど段々と細くなっていきます。

緩やかにカーブする道路沿いに建つ小さな家屋や蔵、畑、そして走行する色とりどりのミニカーが配置されたミニチュアセットの写真

実はこのセットでは、手前に大きなものを、奥に小さなものを置くことで遠近感を強調し、実際の距離以上に奥行きを感じさせるという「強遠近法」が用いられているのです。これは、撮影現場などの広さが限られた空間の中でミニチュアセットにリアリティを持たせるために使われるテクニックであり、緻密なデザインと配置が成せる技となっています。

なお、上の写真をもう一度よく見てみると、建物のミニチュアの裏面に当たる部分が写っているのですが、装飾が施されていなかったり、壁が付いておらず空洞になっていたりすることが分かります。ミニチュアは基本的にカメラに映る面を作り込めば映像として十分成立するため、裏側はつくりが簡素になっているのです。またそうすることで、限られた制作期間内に効率よく多くのミニチュアを作ることができます。

遠くに見える険しい連峰を背に、瓦屋根の民家や畑が点在する山あいの町並みを模したジオラマが広がり、道路上の交差点にはバスや乗用車が精密に配置され、のどかな地方の風景が細部まで再現されているミニチュア写真

セットの正面から見た様子

建物が全く違和感のないつくりとなっていることがわかる

こちらも「強遠近法」と同様に、カメラを通して決まった方向から撮影するという前提があるからこそ可能となるテクニックといえるでしょう。

また、ミニチュアセットの後ろに配置されたホリゾント(背景画)も注目したいポイントです。

青い空と白い雲が描かれた背景の前に、山々や家屋、道路、走るバスなどが精巧に再現された街並みの巨大なミニチュアセットの全体を写した写真

この青空に浮かぶ雲は島倉二千六氏によって描かれました。島倉氏は映画・ドラマ・演劇などの背景美術に長年携わっており、特にその卓越した雲の描写力から「雲の神様」とも呼ばれています。

この大きな背景画によって、室内にいながら晴天の下で町の景色を眺めているような気分を味わうことができるようになっています。

では、これらの特徴を踏まえた上で、実際にミニチュアセットを撮影してみましょう。

このセットには撮影におけるベストポジションがあり、そこには1枚のガラス板が設置されています。そのガラス板を通してセットの写真を撮影するのですが、実はそのガラス自体にもある細工が施されています。ガラスの上部には空の絵が描かれており、ガラスの向こう側に見える部屋の天井をちょうど覆い隠してくれます。すると撮影する際に、手前のガラスの絵と奥のホリゾントの絵が上手くつながり、画面の隅まで広がる大空が現れるのです。

背景には青空のパネルが広がり、建物の模型や道路を走るバスや軽トラック、パトカーが配置されており、手前には黒い枠の中に雲の絵が描かれたガラスが設置されているミニチュアセットの写真
入道雲が浮かぶ青空の下、商店が並ぶ道路を走る軽トラックや路線バス、電柱や街灯が細部まで作り込まれているミニチュアセットの写真

これは「グラスワーク」と呼ばれ、室内のスタジオであっても高く広がる空を表現することのできる技法になります。

このセットは俯瞰ではミニチュアの大きさの違いを楽しめますが、目線を低い位置へと下ろし撮影することで、自然な奥行きをもった風景を楽しむこともできます。

そしてミニチュアセットとホリゾントとの間には見学通路が設けられています。通路に人が立った状態でガラスを覗くと、まるで町に巨大化した人間が現れたかのような写真を撮影することが可能となっています。