円谷プロ作品に登場する青い機体に赤いラインが施された大型戦闘機「スカイホエール」を前方斜め上の角度から捉えており、特徴的な長い機首や横に広がった主翼、さらに後方の尾翼まで機体全体のフォルムを白い展示台の上で鮮明に写した写真

今年で放送50周年を迎えた『ウルトラマンタロウ』。作品の撮影で実際に使用されていたミニチュアの一部が、現在須賀川特撮アーカイブセンターに収蔵されています。今回はそのうちのひとつである「スカイホエール」について、修復の過程も交えながらご紹介します。

3.修復の過程

スカイホエールの修復に至ったきっかけは、2012年に東京都現代美術館にて開催された展覧会「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」でした。展示品の一つとして公開するため、当時の姿を復元する必要があったのです。しかし修復前のスカイホエールは、現在の美しい姿からは想像もつかないほど劣化や損傷の激しい状態でした。修復を担当した原口智生氏は、スカイホエールは工程が多く手間のかかる難しい一品であったといいます。
(原口智生:監督、特殊メイクアップアーティスト。認定NPO法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)発起人。近年は特撮ミニチュア・プロップ修復師として活動し、須賀川特撮アーカイブセンターに収蔵されている数多くの資料の修復を担当している。)

修復作業は、劣化した塗装面を全て剥がし、欠損した部分の補修を行うところから始まりました。補修にあたっては、商品化のために撮影された当時の貴重なスチール写真をもとにパーツの形状や寸法を割り出しました。バルサ材で作られた木部は胴体、垂直尾翼、主翼の一部しか残存しておらず、一から作り直さなければならない箇所がいくつもありました。

薄暗い倉庫のような作業台の上に置かれた、塗装が剥げ落ち木目が剥き出しになった大型戦闘機模型の写真
円谷プロ作品に登場する青い機体に赤い塗装が施された戦闘機の翼や機体の一部と見られる破片が、黒いボードの上に標本のように並べて固定されており、中央下部には「ZAT」のマークが描かれたエンブレム状のパーツも配置された資料写真

新しいものと差し替えられたオリジナルのパーツ
塗料の退色や木の腐食から劣化の度合いが伺える

また、一部にシロアリと思われる虫食いの跡も発見されました。そのため一度、陶芸用の窯を用いてくん蒸(気体の薬品を使って殺虫・殺菌を行う処理)を行い、形状維持のために隙間に樹脂を染みこませる処置を施しました。

次に、表面に砥の粉(石を粉末状にしたもの)を塗り、磨き上げました。こうすることで木目を消して塗装がしやすくなり、かつ柔らかなバルサ材に強度を持たせることができます。これは当時、バルサ製のモデルを作る際の工法としてはスタンダードなものであったといいます。

暗い作業場の一角に、台座に載せられた大型戦闘機をが修復処置されている途中の写真
木材の表面を白いパテで広範囲に埋め立て、コックピット周辺の滑らかな曲線や機体の凹凸を整えている修復工程途中の写真

その後、水性パテとサンディングシーラー(下塗り用の塗料)を使用して塗装の下地を固めました。

薄暗い作業室内で、グレーで下地塗装が施された大型戦闘機模型を前方から捉えており、機首部分の吸気口のようなスリット造形や滑らかに整えられた機体表面の質感が分かる写真

そしていよいよ本塗装です。塗装をはがした際に判明したことですが、実はスカイホエールは撮影中の劣化を補うために4回ほど色が塗り直されていたため、修復前の時点ではオリジナルの色が分からなくなっていました。しかし、胴体の底部に電池ボックスを収納するための穴があり、その穴にのみ最初に塗られた色が残されていたのです。その塗料を抽出し、特定することで、最終的に全体を同じ色で塗装し直すことができました。

木目が見える大型戦闘機模型の表面に四角い穴が切り抜かれており、その内部に青い塗装と円柱状のパーツが覗いている様子を至近距離から撮影した写真
下地塗装が施された大型戦闘機模型のグレーの機体表面に、ステッチルレットを使って機体のリベットを表現している部分を至近距離から撮影した写真

その他にも、機体のリベットを表現するためにステッチルレット(縫い穴の印をつける手芸工具)を用いてミシン目のような模様を施すなど、ディティールにこだわって制作されていることが分かる

完成した大型戦闘機模型「スカイホエール」の機体表面を至近距離から撮影しており、グレーの下地段階で刻まれた精密なリベット跡が塗装後も規則正しい点線で再現されている機体写真

こうして修復を終えたスカイホエールは無事「特撮博物館」に出品され、その後他の資料とともに須賀川特撮アーカイブセンターへ収蔵されました。

資料は時とともに劣化していきます。少しでも永く形を残していくためには適切なケアがなされなければなりません。大切に保管し、そして修復しようとした人がいるからこそ、私たちは今でも資料を楽しむことができているのです。

センターへお越しの際は、造形はもちろんのこと、ぜひその経緯や過程にまで思いを馳せながら、スカイホエールをご鑑賞いただければと思います。

基本情報

基本情報一覧
名称 スカイホエール
寸法
  • 全長:1700ミリメートル
  • 全幅:1200ミリメートル
  • 全高:400ミリメートル

(6尺モデル)

材質
  • バルサ材
  • 金属
  • その他
登場作品 『ウルトラマンタロウ』(製作:円谷プロダクション・TBS、放送年:1973年~1974年)
デザイン 鈴木 儀雄
制作 東宝特殊美術課
修復 原口 智生

主要参考文献

  • 澤村信編『オール・ザット ウルトラマンタロウ』ネコ・パブリッシング、2016年
  • 千葉栄編『俺たちのウルトラマンシリーズ ウルトラマンタロウ』日之出出版、2017年
  • 鈴木康成編『語れ!ウルトラマン 兄弟激闘編』KKベストセラーズ、2013年

この記事に関するお問い合わせ先

須賀川特撮アーカイブセンター
〒962-0302 須賀川市柱田字中地前22

電話番号:0248-94-5200

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